「憑き物が落ちたような顔をしているな」
彼女の言葉に、彼は作業の手を止め、意外そうな顔をして彼女を見た
「憑き物、かい?」
「ああ」
部屋に突然入ってきた彼女は、膝にケット・シーを抱き上げ、部屋にあった椅子に座っていた。
それから彼女が入ってくる前からディスプレイを見ながら作業に没頭していた、彼の横顔を眺めていた。
しばらくそうしていたが、ふと思いついたように言った言葉に、彼は彼女の顔を見た。
「眉間のしわがいつもより浅い」
彼女は自分の眉間を指差して笑う。
「そうかな…」
作業を止めた彼も、思わず自分の眉間を触る。
「仲間と会ってきたんだろ?」
彼女がわずかに首を傾げ、質問した。
「いや…」
彼はゆっくりと首を振った。
「アンタにそんな顔をさせられるのはお仲間くらいだと思ったんだがな」
「そんなに私の言動はパターン化してるかな?」
彼が首を傾げると、彼女は続けた。
「だってエッジに行ってただろ?」
そこは彼の大切な仲間のうち、二人が住む場所。
「ああ、それでそう思ったのか」
彼は笑顔で否定する。
「今回は別件だよ」
「呼び出しは彼だけど」
「ほらその顔」
彼の顔に人差し指を突きつける彼女は、少しだけ唇を突き出していた。
「え?」
「仲間のこと話す時、局長は爽やかな顔してる」
「嬉しそうな、誇らしげな…」
そう言う彼女の顔が、彼には何だか不満げに見えた。
「…妬いた?」
彼は彼女の顔を下から覗き込むように見た。
「まさか」
彼女のぶしつけなほどに見つめる視線に、彼は苦笑するしかない。
「平然とされるとこっちが切ないね」
肩をすくめ、やれやれと息を吐く
「アタシにはシェルクがいるから平気だ」
胸をはり、自慢の妹の名を呼ぶ彼女を見つめて彼は微笑んだ。
「私は妬いてるよ」
彼の右腕が彼女に伸びる。
微かに彼女の頬に触れ、自分の膝に戻す。
「局長の甘い言葉は、信用できないんだよね…」
今度は彼女の右腕が伸び、手のひらで彼の頬に触れる。
「ひどいな」
彼の笑顔に、彼女も楽しげに笑う。
「でもな、局長」
ぐに。
彼女の右手は、彼の頬を抓っていた。
「いだい…」
「なに、するんですか…」
涙目になった彼を、彼女は仏頂面で見つめた。
「泣きたそうだったから」
「憑き物が落ちたのに?」
「ああ」
彼女が彼の頬から手を離し、彼の右手を取った。
指先を絡める。
「何があったか知らないけど」
彼女は目線を逸らす。
「どっちかと言うと、仕事交じりかな」
やはり笑顔を作る彼を見て、彼女は睨み付ける。
「こっちが良かったかな」
左腕を僅かに上げ、示すと彼は眉間に皺を作った。
「それは勘弁してください」
「それで憑き物を落とせた、と…」
「別の問題を先延ばしにしただけかもしれないけどね」
「まあ落とせた、といっても一つだけか」
「一つ?私には一体いくつの憑き物がついてるんだい?」
笑って言う彼女に彼は問う。
彼女は肩を竦めた。
「とにかくたくさん」
「局長は背負い過ぎてる」
「重そうだな」
ため息を吐く。
「一緒に背負ってくれるかい?」
「断る」
「冷たいな」
彼が肩を竦める。
「でも」
彼女が両腕を彼に向かって伸ばした。
「なんだい?」
「死ぬまで見張っててやる」
「どれだけ憑き物が落とせるか」
「傍で、ずっと」
「よろしくお願いしますね」
某公式小説の後の話が書きたかった。
何これ。
それよりあれはジョニーにウケました。
ちょ、その人あんたの心の師の仲間ですから!